着せ恋面白いですね。
今回は、みんな大好き「その着せかえ人形は恋をする」の雑レビュー。内容は大まかにタイトルのとおり。
着せ恋ってどんな作品?
着せ恋といえばまりんちゃんですね。
まりんちゃんといえばギャルです。そしてこの物語は、幻の存在であるヲタクにやさしいギャルを作品化したキラーコンテンツです。
でも、タイトルのとおりでいえば、実はまりんちゃんに限らず五条新菜が手掛けるコスを着るすべての人形が新菜に恋をするのかもしれません。まあまあ、そんなこんな今どきっぽいレイヤーとクリエイターのウィンウィンの関係を、爽やかに描く作品になっています。
その一番の特徴は「趣味の肯定」です。
主人公ほかすべてのキャラクターは「趣味」を持っています。それらは、立て付け上はレイヤーとクリエイターと枠組みに振られていますが、各々のモチベーションはややずれたところにあり、またずれているがゆえに、相互の「好き」を補完しあう関係になっています。
その「好き」を肯定する姿勢は、昨今のサブカルチャーを見れば分かる通り、極めて現代的(令和的)なお話になっていますね。
つまり、着せ恋というのは現代における、あらゆる「好き」を肯定する作品なのです。
だからキャラクターの魅力以上に広く受け入れられている印象があります。
興味深い作者のスタンスとチョイス
興味深いのは、作中の描写はしばしば男性向けに性的でありながら、これの原作者「福田 晋一先生」が女性だといわれていること。(基本的に僕は絵の繊細さから女性説を信じているので、先生が女性ということで話を進めます)
先生は女性でありながら、男性のツボを抑えた選択をしてきますね。まりんの描写やふるまいはしょっちゅう「あざとく」、選ばれるエピソードも男性を意識させるものがあります。たとえば「聖♡ヌルヌル女学園 〜お嬢様は恥辱倶楽部ハレンチミラクルライフ2〜 」なんてタイトルは、通常の女性作家ではなかなか選ばないチョイスかと思います。
先生はこういうものをしれっとぶっこんできます。
ただその裏側にあるのは、ジェンダーを超越した「かわいい」の肯定や「好き」の肯定というところにはブレはありません。
そして個人的には、まりんをギャルに設定したのは、男性ウケを狙ったこと以上に、必然的なチョイスだったのではないかと、最近思っています。
そもそもギャルってなんだっけ?
みんな忘れているので、ちょっと指摘したいんですけど、そもそも、ギャルという存在は女性が考えるかわいい/かっこいい存在なんですよね。ギャルは女子のある種の願望が狂竜的進化の結果です。
ギャル以前、あるいはスケバンとかでもいいんですけど、その対局にあるのは、アイドル的なかわいいであり、清楚であり清純だったわけです。
そういう男性側から押し付けられたジェンダーイメージを覆すために、スケバンとかギャルとかそういったオラついた女性象が生まれたわけです。
それは、女子としての有り様と女子の好きを高度に純化していった結果たどりついた境地の一つです。ギャルは「自分らしい」や「リラックス状態」や「好き」を積み重ねた結果の、最果ての有り様でもあるわけです(選択によってはガングロ化したりしますけどね)。
そうやって考えていくと、ギャルとしてまりんが「好き」という感情に対して肯定的なのは、極めて必然的であり、またその情動=「好き」は、美醜にこだわらければ、垣根を越えてヲタク的な価値観とも高度に合致するものだったりするんですよね。(※だからこそヲタクにやさしいギャルがいるかもしれない、と無意識に思えるのかもしれませんね)
で、それによって一つの結論が導き出されます。
その着せかえ人形はヲタク女子の夢を見る
ひょっとしてギャルヲタクというのは、ある種の女子ヲタクの理想系でもあるかもしれない、と。
まりんは自身のヲタク趣味に肯定的であり、また五条新菜という、自身の活動をサポートしてくれる推せるリアル男子まで傍らに置いています。
これは女子ヲタクとしては、本当に一つの勝ち組じゃん、と。これはヲタク女子の夢の一つを体現したキャラクターなのでは?と。
それは、辻希美がアイドル活動の果てに杉浦太陽を旦那に迎え入れて、幸せな家庭を築いて、しかもそれで結構男女の承認をえちゃってるみたいな状況にも通ずるものがあるわけです(極論)。
つまりギャルヲタクのまりんというのは、実は男子が求める伝説のヲタクに優しいギャルではなく、その本質は勝ち組のヲタク女子の夢を体現している存在だってことです。
こう考えると、作者が女性であることにも筋が通るんです。まりんというのは、作者=女子ヲタクの理想像の一つでもあるのです。まりんは趣味に肯定的で、手を出さない恋を楽しんでいる。外見がたまたまギャルなだけで、そこにいるのはあらゆる欲しいを手に入れて維持し今を謳歌する、理想のヲタク女子だってことです。
着せ恋を肯定するユーザーが、男女を越えて幅広い理由がここにあるような気がします。
以上、着せ恋の雑感でしたー。