モルカーが人気ですね。
同時に、Twitter等で、なぜアレがヒットしたのかが良くわからない等の意見を見かけました。ですが、よく見てくと、いろいろとヒットに繋がる要素があったので、解説してみたいと思います。
けっこう当たり前の普遍的な理由でヒットしたと思っています。
モルカー解説
まず、モルカーというものをご存知の無い方の為に説明します。
この作品はモルモットモチーフの車型ぬいぐるみを使ったパペットキャラクターアニメーションですね。画像をみれば、どういう作品か一発で分かると思います。
そして、内容は子供にも分かる、シンプルな「因果応報」をあつかった寓話であり、ノンバーバルストーリーです。劇中、キャラクターはほとんど言葉をしゃべらず、物語はアクション・リアクションとSEのみで進行します。
これが、とても可愛い&ちょっと毒気があって癖になるんですよね。
さて、こんなNHKの教育テレビでやりそうな作品が何故、多くの人に注目されるに至ったのか? そんなに難しい話ではないと思うんですよね。以下にあげていきます。
ヒットの理由について
機関車トーマス+αの作品だということ
見ていて気づくのは、明らかに過去に同じ様な作品でヒットしたものがありますよね。
それは、ご存知「機関車トーマス」です。
あっちは機関車をキャラクター化していました。モルカーは車です。そして、その車両の中には人が乗っていて、時に車両自体とコミュニケーションをします。
お話の内容も、因果応報めいた結果にたどり着く、寓話という点では似ていますね。
ただ、モルカーが機関車トーマスと違うのは、モルカーの場合はだいたい中の人が悪くて、モルカー自体は素朴なキャラクターであることがおおいですね。
この辺は設定上の違いでしかありませんが、いずれにせよ、過去ヒットした作品の類型に連なっているということで、同じようにヒットする素地は十分に合ったと言えます。
人というのは、基本的に過去見知ったもののプラスアルファの要素を持つものに惹かれるんです。だから、トーマスプラスαで目新しさをもった作品はそれだけ、多くの人に受け入れられやすい要素があった。
「たぶん、こういう作品かな?」で、見に行った時に「あ、やっぱり」と理解が早いんですよね。理解が早い事は作品の認知向上の助けになるんですよね。
もちろん、それだけでは注目されませんけど。
親子によるダブルカウントがされたこと
続いてもう一つのヒット要因。
親子で見れる作品であること。大人の視聴に耐えうる毒気もありつつ、基本的には子供を前提とした作品づくりをしていたこと。
この親子が見れる作品であるというのは、過去に鬼滅の話でも書きましたが、ヒット作のための大きな条件になります。
クレヨンしんちゃんや、ドラえもん、ポケモン等が毎回多くの客を動員しているのは、親子で2人分カウントされるからですね。
そしてモルカーというのも、親が子供にみせることで、子供だけでなく親にも認知が広がった。この視聴者層のダブルカウントはヒットに繋がった。
そして、最後にもう一つ。
新時代のクリエイターが顔出しをしてネットで製作アピールしたこと
私は、上記2つに加えてこの3つめの要素が、モルカーに注目を引き寄せた大きな要因だと思っています。
この作品の監督である見里朝希さんというのは、世界のパペットアニメーションでいくつか受賞なんかもしている、新進気鋭のクリエイターなんですよね。そして、彼はSNS等を通して、自身の活動をPRしていました。
ここが、過去の同じ様なパペットアニメーションと違うところだと思うんですよね。
で、これを単なるPRの話だと思わないでほしいんです。
たとえば過去NHKにもパペットアニメーションというのは沢山あったと思います。しかし、昔のクリエイターというのは、エンドロールに名前こそでますが、顔出しして自身がPRするというのは、少ないんですよね。そこに興味をもつのはヲタクだけだったんです(ちなみにニャッキ製作のお弟子さんだそう)。
それが、今の時代というのは、だいたい顔を出し、名前を出して行動をする。WEB上の告知において、実績とプロフィールがついてきたら、今の視聴者というのはどんな人がつくっているのか、興味を持つんです。
この時、監督の見里朝希さんの実績というのがセットで露出されたことによって、若く新しい世代のクリエイターがこんなに質の高いものをつくるんだ、と興味を持たれた。
そんなにPRしていないかもしれませんが、この「私が作った」と言うか言わないかの影響の違いというのがとても大きかった。
作品の質とか細かなところは色々あるんですが、私は大きくはこの3セットがうまく噛み合ったことが認知を広めた要因だと思っています。
まとめると
すなわち「トーマスのような過去に見たことがある作品の延長にあったから受け入れられやすかった」「親子で見れることで裾野が広かった」「クリエイターへの興味が作品を後押しした」です。
とくに3つ目は時代をよく表していると思います。
ネット時代の「すごい!」の探し方
さて、ココからはよもやま話をいくつか。
私は、ネットが発達したことによって、世の人々のクリエイティブに対する考え方というのは、随分変わったと思っているんですよね。
これには大きく2つあります。
まず1つは、You TubeやTik Tokのおかげで、難しいと思えていた物事や、恐れ多いと思われていた物事の敷居がぐっと下がった。ある種の芸能人的なキャラクターというのは、自分たちと変わらない大したものではないのではないか、という認識が一つ広がった。これは世の中の「本当に凄いもの」を一般の人々が考える切っ掛けになった。
そしてもう一つ、You TubeやTik Tokのおかげで、え、あれってこんなに大変だったの? これをやっていた人というのはこんなに凄かったんだ? という認識が広がったこと。すなわち、外見だけの「凄い」人たちが貶められて、いままではエンドロールにしか名前のない陽の目を見なかった「凄い」人たちがクローズアップされるようになった。
その好例にあやかっているのが、30代前後からそれ以下の新時代のクリエイターたちです。現代というのは誇れる仕事をやってのけたら、直接誇ってもいい時代なんです。そして、それが一般の人たちに伝わる時代なんです。
だから、このモルカーというのは作品とクリエイターがセットで名を知らしめた。ちなみに昔も新進気鋭でポップなクリエイターがいないわけじゃなかったんですよ? 例えば元19の326という優れた才能を持ったイラストレーターがいますよね。彼は現れた時に非常に取り上げられていましたが、その後はあまり見かけなくなった。理由は明快で、あれはメディアやプロダクションありきの推し方だった。そして当時はSNSが無かったので、脱退後は草の根の活動は知らせる手段が存在していなかった(326さんは今も活動されていますが、かなり苦労をされているのはwikiのとおりです。彼のようなポップなアーティストというのは、SNSがあればもっと違った活動が出来たんじゃないかと思っています)。
対して現代というのは、プロダクションやメディアから個人のクリエイターが独立したところにいるんです。米津玄師とかもまさにそうだと思うんですけどね。そして、世の人々の認知もそうなっています。
プロダクションやメディアに使い潰される人じゃなくて、僕らがもり立てた人を推して行こうという世の中に、シフトしていきている。モルカーのヒットの裏にはそういう情報インフラの発達がしっかりとある。
で、結局モルカーはおもしろいの?つまらないの?
さて、肝心のモルカーの中身の話をもう少ししましょう。
作品を見ていて思ったのは、日本人なら誰もが理解できるマンガ的ノンバーバルコミュニケーションをしっかりと意識した上で「めちゃくちゃ丁寧に作ってあるじゃんコレ!」でしたね。
というか、モルカーの顔芸は能に通じる豊かさがありますよね(ほんとにそう思ってます)。そのあたりの見せ方がうまいなー、という印象です。
また、色味や世界観もわかりやすいので、子供にもバチッと理解できるようになっているのも素晴らしい。
たとえば西野亮廣さんのプペルですが、あれは絵本と謳っていますが、子供には難しい作品だったりするんですよね。あのプペルの色味だったりストーリーだったりディティールといった、視覚情報や概念情報というのは、まだ感覚の発達していない幼児には認識できないらしいんですよ。
プペルというのはディティールが楽しい作品だとおもうんですけど、絵本でありながら子供向けのディディールで作られていない。あれは、大人が見ないと理解できない作品なんですよね。
対して、モルカーというのは、キャラクターといい色味といい、お話といい、子供に理解が及ぶ要素がある。
尺が短いのはコスト的側面からしょうがないですよね。それを回避するためのアイディアもいっぱい駆使されているように思えます。また撮影ツールや編集ツールの進化によって、このレベルのパペットアニメーションを連載作品として作れるようになったんだ、とちょっと映像がらみの仕事をしている身としては感慨深いものがありました。
ウォレスとグルミットとか、ピングーとかと比較しちゃだめですよ?
あれは、かけた時間が違うんじゃないかと。というか、これはそういうものと比較する話じゃないんですよ。彼のような優れたクリエイターが、こういう作品を継続的に作るケースができた、ということが重要なんです。
おそらく、見里朝希さんは遠からず長編に手を出すんじゃないかなと思っています。
今回の作品のヒットをきっかけとして、良い人も悪い人も周辺に集まってくると思うんですよね。
なので、どうかうまくその中から自分に合う人を見つけて、さらに良い作品をつくってほしいな、そういう方向に今回の仕事がつながるといいな、なんてモルカーを見ていて思います。