美少年探偵団が面白くて、密かに見続けています。
西尾維新×シャフトなので、面白いのが当たり前といえば当たり前なんですが、この面白さ、かわいさ、美しさは、かつてのヒット作である化物語の延長にあるんじゃないかと思いまして──今回はそのあたりについての雑感。
久々にアニメ登場した西尾維新発の奇天烈ミステリ
西尾維新の特徴というのは、キャラ造形に加えて、その独特の着眼点、台詞回し、そしてミステリにあると思っています。
かつては化物語において、それらを存分に発揮して、視聴者たちに、今まで見たことのない物語や世界観を提示していました。
以後の作品にも、それらの要素が無いわけではありませんが、同作以後に、アレに比類する大ヒット作は生まれませんでした。めだかボックスや忘却探偵シリーズはありましたが、普遍性においては一歩譲ります。
ちなみに、化物語がヒットしたのは、男性も女性もユニセックスに楽しめる作品であったことが挙げられます。
化物語の小説版は100万部超えをいくつか発表していますが、基本的に作品というのは老若男女が手に取れるかどうかでヒットの境目が変わります。呪術廻戦然り、鬼滅の刃然り、進撃然り、大ヒットした作品というのは、何がしかのファン層の「ダブルカウント」がされることで、初めてヒット作になる訳です。
そして、今回の美少年探偵団は、おそらくダブルカウントまではされないでしょうか、普遍性という点では、素材は悪くないと思うのです。
美少年探偵団の背後にある化物語のファン層とターゲットの広さ
さて、私は、美少年探偵団の原作を全く追いかけていませんでした。
そして、アニメ版の初回試聴の印象でいいますと、美少年ということで「完全に女性ターゲットだろう」というイメージでした。
しかし初めに疑問を懐きます。
何故西尾維新は、美少年探偵団などというシリーズを作ったのか?
ちょっと考えて導き出されたのは、この美少年探偵団の背景には、化物語の小説のヒットがあったことですよね。先に述べたとおり、化物語は小説を女性も買っているらしいんです。だからこその男女のダブルカウントであり、ヒットです。
そして、昨今のコンテンツ産業において「女性層を取り込む」というのは、一つの必要な試みだったりする訳です。つまり、西尾維新は満を持して女性をターゲットに美少年探偵団を作ってきた、あるいは、阿良々木暦ハーレム物である化物語に対する形で、女性向けの「化物語」を作ってきた、というのは容易に導き出される結論でした。
個人的には、どれだけ女性層を意識した作品になるのか──昨今流行りの刀剣乱舞のような、あるいは女性向け恋愛ゲームのような、一通りの男子テンプレを用意して、それでファンの推しを創出して楽しませる作品になっているのか、そのあたりが気になっていました。女性向けの逆ハーレム物というのは、独特な構成が求められるぞ、と。難しいんだぞ、と。
しかし、蓋を開けてみると──もちろん、一通りの男子テンプレは用意していましたが、ハーレム物というよりも、旧来の化物語的な奇天烈ミステリをベースにした、かなりターゲット範囲の広い作り方をしていました。
幅広く可愛くかっこいいキャラが用意されている
とはいえ──真っ先に目に入ってくるのは、男子と女子それぞれの可愛さです。
美少年というくらいですから、一通りの男子テンプレはいる訳です。
知的キャラ
朴訥キャラ
俺様キャラ
僕っ子キャラ
ショタキャラ
そして、主人公はメガネ美少女かつ男装の麗人。
さらに、脇を固める、クセのある準レギュラーのライバルたち。
ところが、数話見ていって面白いと思ったのは、男女逆転をさせることですよね。男子がツインテ女子になり、女子が美形男子になる。意識してか、幅広いキャラバリエーションを作っている。
そこにあるのは、キャラデザインにおける男性向け要素の存在です。つまり、美少年と言っておきながら、主人公は美少女であり、男の娘も出てきます。男子キャラも、まあ何かに目覚めそうなデザインをしています。これ見ていくと、少女コミックのキャラデザとは違う、けっこうターゲットの広い作りなんですよね。さらに、それに加える形で、老若男女がすべて楽しめる、西尾維新のミステリテイストが混じった構成になっていた。
思った以上に広く狙ってきています。無意識か、結果としてそうなっただけかも知れませんけど。
──そして、ここでふと気付きます。
美は少年であれ少女であれ、動いているだけでコンテンツになる
ここまで、ずっと美少年探偵団は女性向けの作品だぞ、と思っていたんですが、どうもそういうもんでもないようです。
登場するキャラクターは、かっこよくてかわいい。というか美少年であり美少女です。そこでは、我々アニメファンが真っ先に感じる「◯◯萌え」がクリアされています。
世のアニメ作品の目的には「萌え」というものが必須です。しかし、これは安易にやるとただの安いコンテンツにしかなりません。
化物語でも阿良々木暦の脇を固めるのは美少女たちと、美女たちと、幼女と、美オッサンたちが、いくつかの「萌え」をクリアしていました。いくつかのキャラは「蕩れ」の領域にまで達していた。ある部分ではやり過ぎに思えたものでしたが、それは高度な物語の構成から、うまいことバランスがとれていました。
では美少年探偵は?
西尾維新は開き直って、オッサンやガチムチを廃して、美男美女をずらりとならべて来ました。安易なチョイスじゃないか? ええ、私も初めはそう思いました。
──そこに西尾維新のレトリックマシマシのミステリが加わると、キャラは立ち上がり、これらは問題ないほどレベルの高い「知的で美的な萌え」な作品になるっていう。
ここでようやく理解するのです。「ああ上手い人が作るお話というのは、美少女と美少年だけでも問題なくコンテンツになる」のだということに。
そしてこれは「美少年探偵団」という切り口で、ちょっと損をしていますが、実は化物語に匹敵する、普遍性のある、正しいモノづくりなんじゃないかとも思える訳です。
時代に対して早すぎたコンテンツになるか? あるいは?
世の中には、この「美少年探偵団」というコンテンツを、視聴することに抵抗がある人がいるかもしれません。とくに男子。化物語なら楽しく見れたのに、こっちはそうでもないかもしれません。
ですが、やってることはそのキャラバリエーションや切り口も含めて、化物語の延長にあり、油の乗った西尾維新の奇天烈ミステリもしっかりと入っており、エンタメとして、かなり挑戦的で高度な作品だと思います。
それが、伝わるかどうかは視聴者次第でありますが、見れば見るほど、そんなに「早すぎたコンテンツ」でもないんじゃないか、と思うのです。
同作に、ドハマリする人が続出するかどうかはわかりませんが、少なくとも、いい気分で視聴完走できそうな作品だな、と思いました。
クセが強いですが、今からでも興味がある人は見てみてもいいかもしれませんよ?