呪術廻戦のアニメ版17話を見ました。
アニメ版では、おなじみ我らが0話のヒロイン禪院真希と禪院真依の一対一が、丁寧に描かれていました。(※本編ネタバレあり最新話まで未視聴の方は閲覧をおやめください)
それを見ている中で、いくつか思う所あり雑感。
禪院真希と禪院真衣の呪い
今回は禪院真希と禪院真衣の裏エピソードが語られました。禪院家というのは、呪術師の御三家であり、そこに生まれた禪院真希と禪院真依は、女性であること、そして双子であることから、幼少時より忌み子とされ、不遇な日々を送っていました。
保守的な界隈において、女子が抑圧されてしまうのは、あるある話だったりしますが、呪術廻戦という漫画は、少年漫画なのにそのあたりちゃんと書いてくるのが凄いですよね。
さらに、その上を行く禪院真希や釘崎野薔薇等といった突破モノの女子たちが魅力的だといい切っているのも凄い。ま、それは別でも書いたとおりですが置いておくとして──。
さて、この作品において面白いなー、と思うのは、ストレスを感じるような不遇な境遇は、呪いという扱いになるんですけど、それが転じて力になる、という設定として「天与呪縛」というものがあること。
天与呪縛というものは、メカ丸の時にも出てきました。
この禪院真希パイセンも呪霊が見えず呪力が弱いことから、反動として呪術師としての身体能力が図抜けているという、逆説的な才能の開花の仕方をしています。また逆に、禪院真依はそれが中途半端であるがゆえに、力が姉に及んでいないという状況があった。
そして、だからこその、こじれた家と姉妹の「呪われた関係」が、今回描かれることとなりました。
この真希と真衣のエピソードは、姉妹モノの愛憎劇として非常に面白いんですが、私はその二人と禪院家の関係に、もう少し深いものを感じるんですよね。
そもそも、しょっちゅうテレコになって、後付で力を発揮させたりする「呪い」って何なんだろーね、という部分も含めて。
呪術廻戦における呪いってなんなん?
呪術廻戦の呪いというのは、作品上においては、人と人に絡む事柄に生じたネガティブな感情ということになっていますよね。
それを操って力を発揮するのが呪術師であり、それが具現化したり、その力を宿した物が呪霊だったり呪具だったりする。
設定としてはよく分かるんですが、見ていると呪霊や呪具、呪術師というのは生々しい存在であるにも関わらず、必ずしもネガティブではない。彼らは善悪では論じることが出来ない多様さを秘めていたりする。
何がいいたいのかと言うと、人の行動動機を縛り付けるものというのは「ネガティブ」なものだけじゃなくて「ポジティブ」なものというのも存在しますよね。しかし、呪術廻戦においては「ポジ」には言及せずに、人を突き動かす情動の全てをふんわりと「ネガ=呪い」である、という言い方をしている。
ところがよく考えてみると、「呪い」に対しては「願い」という反対側の意味合いをもつものが存在していますよね。というか、そういうロジックは容易に想像できるんですが、呪術廻戦にはそれに一切触れていないんですよね。「願い」やそれに類する「呪い」と対になるポジティブな言葉が出てこない。私はこれがずっと気になっているんです。
単なる言葉遊びに見えるかもしれませんが、私は呪術廻戦の作者芥見下々先生は、もしかしたら分かってて「願い/ポジ」のほうを隠蔽しているかもしれないなー、とか思っているんですよ。実は芥見下々先生「呪い」まわりの設定を全部明かしていないんじゃ?とか。
虎杖や釘崎は、発端は呪いなんですけど明らかにポジ=願いを持って生きてますよね。だからこそのヒーローとヒロインです。そして、禪院真希もネガポジのどちらかというと、呪いを転じて願いや希望にしているキャラクターに見える。
禪院真希と真衣の呪いと願い
禪院真希は、呪術を持たない、という呪い「天与呪縛=ネガ」をもっていますが、外にでて、禪院家の当主をめざすというのは「ポジ」です。また、真依との関係についても、二人は姉妹として「愛憎入り交じる=ネガポジ両面」を抱えている。真衣はお姉ちゃんが大好きです。それは呪いであり願いでもある。また二人でいることは希望です。
つまり、この物語においての人間ドラマには、当たり前に呪いと願い、あるいは希望といったものが同居していてしばしばテレコになっている。天与呪縛だってそうです。欠けている、という呪いからポジを引き出す。
禪院真希の願いは、その不幸な境遇を反動にして、外に向かい、何者かになることです。禪院真依の願いはそれとは別の消極的なものではありますが、市井の人として背伸びしない範囲の幸せを望むものであると、判明しました。
そして、この姉妹の物語としては、仲睦まじく、そのどちらも尊重すべきものとしてポジティブな結末を迎えるのが望ましい。呪いは転化してポジにたどり着くのが望ましい。
17話のエピソードは憎悪をぶつけ合った二人が、ネガからポジに切り替わった瞬間を描いてましたよね。それは一つの呪いの転化した可能性を示していた。物語なら、そうなるのは割と必然ですよね。なら、二人の大オチは、二人して禪院家を切り盛りする、という所にたどり着くのが最もふさわしいと私は考えている。
私は、芥見下々先生のバランス感覚で考えるなら、この禪院真希と禪院真依というのは、死亡フラグが立たないキャラクターだよな、と思っています。そして間違いなく二人はそろって禪院家に戻ってくると思っている。そうならないと私は納得しないですよー。
二人の名前に込められた呪い=願い
なんでかと言うと、二人の名前にはどうも禪院パパ(=作者)の呪い&願いがかけられているように思えるからです。
禪院真希の名前には希望の希が入っています。禪院真依という名前は真なるものの依りどころ、というふうにも見える。また衣を持つから包むような側面もありそう。
この名前をもつ二人は、セットでいるとポジっぽいんですよねぇ。
禅院直毘人は二人に試練を与えると言っていました。作者はそれらをひっくるめた上で、二人の名前と関係に呪い=願いを込めていると思える。
17話の禪院真希と真依、そして過去のエピソードからは、そういったものがヒシヒシと伝わってくるのでした。
もし、呪術廻戦における呪いが願いと表裏であるなら、オチは幸せであるべきだし、そうであるほうがお話は面白いな、と思うのです。
あ、これは私の願い=呪いかもですけどね。
え、真依が!?(令和3年5月24日)
呪術本誌、第149話で、二人の物語に一つの区切りが付きました。
真希と真依は設定上、芥見下々の寵愛を受けたキャラに思えていた&双子キャラなので、なにか特殊な因縁があると思っていました。で、苦しみながらも生き残ると予想していました。縁については当然存在していましたが、149話で真依は本編から退場してしまいましたね。
二人の因縁は、双子であるがゆえに足並みが揃わず成長しきれない、ということでした。そして、真依はそれをクリアにするために、自らを滅する道を選んだ。
真依は真希を救って一振りの刀を生み出して、それで力尽きて魂は彼岸の向こうに行ってしまった。
かなりの予想外の展開です。結局、禪院家を生身のまま二人で切り盛りするという予想(というか希望)は外れてしまいました。
真依は真希に思いを託してはいますが──それにしてもこの展開、残酷すぎない!?