第二回:鬼滅の刃の人気ランキングが発表されていますね。
そして、一位に我妻善逸が選ばれていますね。二位には冨岡義勇さん、三位には時透無一郎くん。ちなみに第一回は、炭治郎が一位で二位が善逸、三位が禰豆子。どちらのランキングについても善逸はTOP3に入っていますが、今回は一位。善逸は、物語が進むにつれて本当に、人気を盤石なものにしてきたということでしょうね。
1位 我妻善逸
2位 冨岡義勇
3位 時透無一郎
4位 竈門炭治郎
5位 胡蝶しのぶ
6位 嘴平伊之助
7位 煉獄杏寿郎
8位 伊黒小芭内
9位 不死川実弥
10位 栗花落カナヲ
11位 竈門禰豆子
12位 甘露寺蜜璃
13位 宇髄天元
〜ほか
さて、今回のランキングで善逸が一番であることに異論はないのですが、僕はそれに対して記事を出してきたメディアの考察にちょっと物足りなさを覚えたので補足しようと思いました。※若干のネタバレあるかもなので本編未読の人はお気をつけください。
我妻善逸はギャップ萌え? 優しい? かっこいい? ヘタレ?
我妻善逸の人気の理由として、よく言われるのが「ギャップ萌え」という話ですよね。これは、第一回のランキングをやった当時から言われていました。とんでもなく強いくせに、本人はそれに無自覚で、ヘタレで弱いキャラクターだった。
細かく見ていくと、そこには優しさとか、喜怒哀楽を素直に表現する感情の豊かさとか、徹底的なまでのレディーファーストとかがあって、そこにいざという時の強さが加わることで魅力になったとか。或いは、それが共感を呼ぶんだ、とかとか。さらに、女性層からの支持が圧倒的だと、多くの記事にて論じられている。
間違ってはいませんが、本質はもう少し細かいところを注目することで理解できると思っています。
僕は善逸の人気を得た理由というのは、彼が「人間の多面性」を保持していたこと、そして「鬼滅の刃が短期完結した物語であったこと」が影響していると考えています。
話を整理します。
二面性ではなく人としての多面性を持っている善逸
ギャップ萌えといいますが、細かく見ていくと、複数の魅力的な要素が同居しているというのは、先に述べたとおりですね。これは、多くの記事や考察において「善逸の二面性」や「ギャップ萌え」論へとつないでますが、ちょっと違うんです。細かくは善逸は二面性の保持者ではなくて、多面性の保持者です。
二面性になってしまっているのは、戦いが多くあるジャンプ漫画において、平時と有事の違いという比較構造がわかりやすいからです。単なるジャンプマンガのバイアスでしかない。そのギャップというのはそもそも一つじゃないですよね「ヘタレに対する強さ」「優しさに対する強さ」「ヘタレに対する優しさ」等、善逸の中にはいろいろと見出すことが出来る。
つまり彼が持っているのは二面性ではなくて多面性なんです。そして注目すべきは、劇中における善逸の喜怒哀楽の豊かさです。彼は、喜び、怒り、悲しみ、楽しむ。それを劇中のキャラクターの中で唯一、偏り無く表現している存在なんです。
他のキャラクターは、やはりどこかで「マンガ的に偏っている」んですよね。それは、キャラ付けという面ではとっても正しいのですが、共感という部分でいうと、魅力はあっても同意はできない側面があったりしますよね。
対する善逸は、全方位で喜怒哀楽を屈託なく発露しますから、誰もが必ず共感できる部分というのをどこかしら持っているんです。ある人は強さに、ある人は優しさに、ある人はヘタレ具合に、シンパシーを感じて票を入れる。
一つの要素しかない人物より、多くの要素を持つ人物のほうが、色んな人に理解してもらえるというのは、当たり前のことですよね。つまり善逸の票の多さは、善逸に与えられた受け皿の多さってことなんです。
実は、人というのは本来多面的な存在です。ブレやゆらぎがたくさんあるものです。それをキャラ評では「人間臭さ」といいますが、単純に偏りのない様々な側面を自然に同居させた「冗長性のあるキャラクター」というのは、接していて安心できるんですよ。
他方、たとえば炭治郎や伊之助はどうか? かっこいいキャラクターですけど、炭治郎は長男気質なんでウザいんですよね。しかもチート持ちなのでちょっと怖くさえある(ファンの方ごめんなさい)。伊之助も脳筋なのでウザいんですよね(ファンの方ほんとごめんなさい)。そして善逸は、まあヘタレ具合もあるけど、話せば互いに理解しあえる安心感や冗長性を持つ存在として、接しやすいと思えるキャラクターだってことです。さらに、そういうキャラクターが大活躍することは、とってもファンにとって嬉しいことなんです。
話を整理します。善逸は「ギャップ萌え」という「二面性」をもっているから人気なのではなく、多くの人がとっつきやすい冗長な喜怒哀楽を有した「多面性のある存在」だったことが人気につながっている。
だだ、それだけでは、善逸は一位にならないとも思っています。前回二位でしたし、一位になるには、そこにもう少し補足が必要だとも思います。蛇足程度のお話ですけど。
短期決戦の物語が善逸に与えた影響
鬼滅の刃は完結済ですよね。
そして鬼滅の刃において、各キャラクターは、誰も彼も著しく成長しています。この成長という点において、とりわけ善逸が目立つのは皆さんご存知のとおりです。
さて、この善逸というキャラクターには、物語上で良くある「役割」が一つ付与されています。それは鬼や事件に相対したときの「一般人の目線」ですよね。
同じような役割を付与されて、同じように成長したキャラクターは、他のメジャーマンガにも見ることが出来ます。
たとえばワンピースのウソップ。彼は、作者自らが言っていますが、化け物揃いの麦わら海賊団にあって「劇中の一般人とはどういものか」という基準になるようなキャラクターとして設定されている。後に成長しますが、基本的には機転で戦うタイプであり、戦いは強くないのは皆さん御存知の通り。
他に思いつくものと言えば、最近アニメがリメイクされたダイの大冒険におけるポップですね。彼も、化け物じみた勇者と魔王軍の中にあって、長い間ヘタレ魔法使いだった。
で、この三人ですが、初期においては、ほんとうにどうしよもないヘタレキャラです。人気の上位に上がるとは思えない。ウソップは、もうはじめっからクズであり、なんならウォーターセブン編でも、そげキングじゃない時はウジウジしたクズでした。ポップにしても、初期から中盤くらいまでずっとヘタレで、担当やファンから、あのキャラがムカつくから消せ!といわれていたとかなんとか?
ですが、同時にウソップもホッブも人間くさーい、多面性をもったキャラクターです。先に僕が述べたロジックでいうと共感を引き出す冗長性があったはず。では、なぜ彼らは人気がそれほど伸びず、善逸の人気が霹靂一閃、天上へと突き抜けたのか?
単純な話ですよね、ホッブもウソップも、ヘタレを脱却するまですごい長い期間を必要としていました。その間にファンは飽きる。目移りする。しかし、善逸はそうではなかった。善逸は出演したその鬼狩り回の中盤において、すぐに活躍してみせた。これにより活躍の可能性を示した後だった善逸は、期待感もあって初回ランキングで二位に入る。
今の時代、みんなねキャラの成長を待ってられないんでしょうね。でも本当は、作者というのはじっくりキャラクターを成長させたかったりするんですけどね。ウソップやホッブのように。なぜなら、そこにはドラマを面白くさせる成長のダイナミズムがあるからなんですけど。成長とか変化とかっていうのはドラマの醍醐味ですからね。
そして善逸というキャラクターは、よくシェイプされた簡潔な物語のレギュラーだったことで、多面性を保持したまま、成長のダイナミズムを短くキュッとまとめてアピールできた。これが、諸々露出のタイミングに重なったことで、善逸人気の爆発につながった、と。
同じく多面性を示し人気を上げた柱キャラなど
ちなみに、この「多面性を示したキャラクター」が人気をあげた、という視点は、他のキャラにも当てはまります。
たとえば水柱の冨岡義勇さん。彼、過去においては、あまり強くなかった事が後半判明しましたね。そしてボッチキャラというのも共感を呼んだ。強さに加えて、弱さがあり、抜けた所があった。これは、共感を呼ぶ多面性です。
時透無一郎もそう。彼もクールな残酷キャラかと思いきや、戦いの中で成長し、等身大の男子としての葛藤を発露してみせた。それも多面性です。他のキャラクターたちも本当にいろいろな側面を持っていた。幾人かは、ランキングを上げていますよね。
対して、炭治郎がランキングを下げたのもちょっとわかる話です。炭治郎があの位置にいるのって、主人公補正ですよね。炭治郎って、僕の中ではほぼ「出来杉君」なんですけど、ドラえもんのランキングがあったとして、出来杉君が上位にくるかというと、来ないですよね。また、禰豆子というのも、あまり多面性を見せていないから、ランキングを下げている。
ファンの多くが気づいたと思うんですけど、鬼滅の刃のキャラクターというのは、ことごとく多面的であり、経験を経て変化をするんですよね。その変化によって、キャラクターに幅が出れば出るほど、ランキングを上げている。
この人気投票はまたやるんでしょうけど、映画を見た後とか、後は最新刊が出たり、アニメの二期がいつやるかによって、さらに変わるんでしょうね。いずれにしても、深く掘り下げてもらったキャラクターが上位に来ると思っています。というか件のアンケは令和二年3月のものですし、今やったら、絶対に煉獄さん上位に来るでしょうね。
ヒットの側面に隠れる多様さ
そうやって見ていくと、鬼滅の刃というのは、とかくステレオタイプなキャラクターが多い少年漫画雑誌にあって、かくも人格の多様さを提示した、ほんとうに稀有な作品なんだなと思いますよね。
さらにいうと、今回僕が指摘した善逸の魅力の秘密──「多様性」と「適切にシェイプされた物語」というのは、鬼滅の刃のヒットの話にもつながると思うんですよね。
鬼滅は、この短期間の間に、様々なキャラクターが様々な有り様を示す群像劇になりました。それは、少年マンガメディアを飛び越えて、様々な「人のあり方」を描いてみせた。そこに出て来たキャラクターたちは、失敗もするし、成功もした。喜びもあり悲しみもあった。時に、救いがないけど、総じて見れば救いがあった。
それらは、昨今の「多様さ」を求める人々の気持ちに、バチっとはまったんだと思います。もちろん、ヒット要素は他にもあと2つくらいあるんですけど、人気が出たことの理由の根底に「多様さ」もあったというのは、大いに納得できる話だと思うんですよね。
そして僕らは、しんどい時代にあっても、善逸のように喜怒哀楽を顕にして、一喜一憂して、生きられたらいいな、と思っているんです。たぶん。
以上、善逸と鬼滅の魅力の補足でした。