進撃の巨人〜マーレ編が面倒くさいと思ってしまう構造上の理由について

進撃の巨人
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進撃ファイナルが進んでいますね。アニメ化するとマーレ編は「見れる」ので多くの人が見ていると思いますが、昨年あたりはマーレ編がシンドいという声を多く聞きました。

その理由は「なんか頭使うから面倒くさい」とか、平たく言うとそういうことなのですが、もう少し細かな理由について、ちょっと解説したいと思います。

物語はわかりやすさが正義

そもそも進撃の巨人がなぜあれほどブームになったのか?

その一つの理由としては、巨人が人を食うというインパクトの大きさと、それに相対する人物たちへの苦難への共感からですよね。それをやってのけるには設定の細かさはもちろんですが、ちゃんと伝えるための、物語における情報提示の構成を考える必要があります。そして、進撃の巨人というのは、初期においてこれが非常に丁寧につくられていた。

物語というのは情報提示に置いて5W1Hという基本要素を持ちます。すなわち「いつどこで誰が何をしているのか?」です。で、進撃の巨人の初期においての情報提示というのは、極めて明快でした。

すなわち「巨人に襲われる国」があって「そこで、かつて愛する人を喰われ、成長したあとで戦いを挑むエレンたちがいる」。この5W1Hを開始から見事なまでに、インパクトのある絵で、簡潔に説明してみせたのが、進撃の巨人の前半でした。

だからこそ、伝わるし興味を持たれたんです。

マーレ編の分かりづらい入り方

ところがマーレ編の冒頭は──

なんか、子供(マルコ)が死にそうになっている。誰かと戦っている。巨人ではないみたい。巨人は兵器みたい。へんな女の子(ガビ)がイキってる。いつ? どこ? 誰? 何してるの?

進撃の初期と比較すると、だいぶ5W1Hを無視した入り方をしているんですよね。もちろん読み解いていけば分かるんですが、今までの流れで考えれば、これを面倒くさいと思わない人なんでいませんよね。

また、進撃前半の巨人出現ほどのインパクトもありませんでした。戦争はどこかで見た風景で、少年兵だって既視感もあります。そもそも誰かもわからない人物なので、感情移入もしづらいという状況もあったでしょう。

もちろん、作者はねらってこれをやっていると思うんですけど、おそらくファンからも編集からも不評を買ったであろうことは想像に難くありません。個人的には、もうちょっと分かりやすい入り方はあったんじゃないかと思うんですよね。

マーレ編がつまらないかというと、それは別の話

じゃあマーレ編はつまらないのか?

漫画的なわかりやすさや技法でいったら、もしかしたら「つまらない」という印象が大きくなってしまうかもしれません。

ですが他方で、進撃の巨人がぐっと「おもしろくなった」「おもしろい」といい出した人たちが出てきたのもマーレ編でした。

彼らはなぜそれを面白いと思ったのか?

進撃の巨人というのは、少年誌に描かれる、若年層向けの物語ですよね。そこには、勧善懲悪があって、正義と悪という明快な分類がありました。すなわち、壁の中の人たちは正義で苦しんでおり、巨人は悪であると。しかし、途中から毛色が変わったのは皆さんご存知のとおり。

ライナーらマーレの人々は、エレンたちエルディア島の住人たちを、強烈なまでに悪として敵対視していた。そこには、立場の違いがあるだけで、明快な正義や悪といった分け方が存在しなかった。

これは、少年誌であまり描かれない「多面的な物語」なんですよね。というか、世界的に物語というのは勧善懲悪が好まれて、進撃のような多面的な物語というのは逆にレアなんです。だって、正義が悪を倒したほうが分かりやすいし爽快ですんで。

ですが、現実世界はそうではありません。立場が違えば正義も悪も変わってしまうのが、現実世界の恐ろしいところです。そしてもちろん、そういうものを描いた作品というのは存在します。進撃の巨人のマーレ編もその一つということになります。

この多面重層的な物語を好む層というのが、一定数存在するのです。彼らが、進撃の巨人のマーレ編を称賛したのです。一方で多面的であるがゆえに、対立構造がわからなくなって、離れたファンが出てきたというだけのことですね。

「おもしろい」はどこにある?

じゃあ、進撃はずっとマーレ編のようなしんどい、分かりづらい、爽快感のない話になるのか?

ある意味そうですが、そうでないとも言えます。物語というのは、多面的であっても、オチをつけるために、最終的に対立構造が生み出されて収束します。

作品内では、かつて敵対していた、アニ、ライナーらマーレの兵士と、エルディア島の兵士が共闘をはじめましたね。そして最終敵対者は、今の所エレンほか地ならしをする巨人ということになっています。これを倒す事が最終目標となっています。その向こう側にある本当の敵というのは、言明されていませんが──巨人という存在ではなくて、に互いに敵対することをやめられない世界であり人類ですよね。

そういう、終わりのない敵対構造に答えをだせるのか?それが、進撃の巨人の一つの大きなテーマになっています。

つまり、大きなくくりで、エレンたちを見ていけば、けっこう新たな楽しみ方や関係を見出すことが出来る。そういう所を見ていけば引き続きたのしむ事が出来るんじゃないかな、と思っています。

アニメ版、それほどシンドいこともないですしね。

そんなこんなでラストに向けて、視聴つっ走って行きましょう。