進撃の巨人〜作者諫山創の凄さ。処女作であのキャラ・世界・伏線は天才だと思う

進撃の巨人

進撃の巨人は話題になってからずっと人気がありますね。おなじみの巨人という存在のインパクトに、閉鎖空間や危機的状況における擦り切れるような緊張感、そして、兵士たちの群像劇が、見事に組み合わさって、昨今まれに見る怪作になっています。

そんな同作品ですが、驚くのが、作者はこれが処女連載なんですよね。物語のつくりかたの定石だって、ちゃんと勉強していないだろうに、センスと才能だけで、ここまでのものをよく作り上げたな、と。

今回は、そんな進撃の巨人の、作者がいかに凄いか、その要点を解説してみたいと思います。

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世界観や設定の作り込みのすごさ

進撃の巨人といえば、真っ先に思いつくのは、その世界観の目新しさですよね。巨人が闊歩する世界、壁のある街、立体機動装置、調査兵団、巨人の設定、文化風俗、日々の営み──

この、世界観というのは、その言葉のとおり世界をつくることです。あたりまえなんですけどモノを知らない人は世界を作れないんですよね。そして、だいたい若い作家が作る世界というのは、まだ世の中の事をよく知らないがゆえに、過ちや矛盾が存在していることがけっこう多いんです。

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©諫山創・講談社/「進撃の巨人」製作委員会

それは、作り込まれた世界ほど気になるところがでてくる。ちょっとしたミスが鼻につく。しかし、進撃の巨人に関して言えば、そういう矛盾ってあんまり目立たないし気にならない。もちろん立体機動装置は無理だろうとか、巨人も自重によって潰れるだろう、とか物理的な話はありますけど、それはファンタジーだから多少はいいんです。それ以外がちゃんとしていることが大事なんですけど、これが、ほんとうに丁寧に作ってある。

たとえば調査兵団の移動時の配置や、何か合った時の信号弾とか、世界として、組織として説得力がある。巨人の生態にしたってそうです。ほんとうに考えつくされた構成になっているんですよね。

更に、話が進につれ見えてきた劇中世界の「創世記」も、かなりちゃんと作り込んでいた。あの若さでこれだけの世界を「矛盾なく」「説得力ある」ように作り込むのって、相当ですよ。今まで、いないんじゃないかとすら思える。鳥山先生だって、冨樫先生だって、尾田栄一郎先生だって、設定は狭い範囲であって、後付のザルですよ。というか連載ものって設定はけっこうゆるゆるであることが多いんです。キャラでゴリ押してごまかすもんなんです。鋼の錬金術師なんかは創世記がちゃんとつくられていたけど、あっちは女流作家特有の設定の狭さやぬるさみたいのがあったし。

対して、進撃の巨人は、その世界観設定が、ほんとうに破綻なく、物語に内在していて隙がない。

多様なキャラクターたち

さらに、キャラクターがすごいですよね。調査兵団だけで、どれほどの人数がいることか。今まで、どれだけのキャラクターが「出入り」をしてきたか。普通、キャラのバリエーションというのは、外見はともかく、内面についてはそんなに多くないと思うんです。特に若手作家の場合は、まだ人生経験のない中で作り出したキャラクターのバリエーションというのは、そんなに多くはならない。というか、そもそもキャラというのは、人を知らないと作れないんです。

しかし、進撃の巨人は、大人から子供まで、様々なバリエーションが存在している。調査兵団内もそうですし、その外もそうです。しかも、誰もが、それぞれ動機や思想を持っていて、破綻なくその通りに行動している。

普通、あの若さで、リヴァイやピクシス司令、エルヴィン団長みたいなキャラクターって描けないと思うんですよ。

©諫山創・講談社/「進撃の巨人」製作委員会

エレンやミカサとかの若い兵団のことが描けるのはよく分かるんです。それは自分の世代のことですからね。でも、作者はそうでない、年長のキャラクターについてもしっかりと内面まで描いている。普通、歳の遠いおっさんのことなんてわかんないというのに。

若手作家が自分より年上をかくと、先入観でもって「薄っぺらいテンプレ」になるんですよ。しかし、この作品はそうはなっていない。

おそらく、周辺にモデルとなる大人たちがいたんでしょうね。それを、素直に描いてみせた。このキャラクターバリエーションと人物の掘り下げは、あの若さの作家では奇跡に近い。観察力が凄いのかもしれません。

新人とは思えない台詞回し

キャラクターのセリフについてもそうです。進撃の巨人はセリフも優れている。

同時期の作品でいうと──例えば、鬼滅の刃って、台詞回しちょっとおかしいんですよね。「生殺与奪の権を与えるな!」とか、セリフとしてはおかしい。武人の畏まったいいまわしをしようとして失敗している。若さがでちゃってる出てる。あるいは呪術廻戦もセリフは優れていますけど、あれは現代の世界なので作者の日常の延長で描けている。

そんななかで、進撃の巨人のキャラクターのセリフというのは、いい意味で若さがない。含蓄のある、哲学めいた台詞回しが多い。世界観に即しているし、年齢差や性差もちゃんとえがけている。そういう、多方面に配慮の必要なセリフを、破綻なく矛盾なく、すんなりやってみせている。これがすごい。

©諫山創・講談社

セリフってただ本とか読んで身につく話じゃないんですよね。セリフはそのキャラクター個々人のバックボーンから出てくるので、単純に作者の思想と、発想のバリエーションがないと、限界があるんです。世界観とおんなじで実体験がすべてで、実体験がそのまま反映されるんです。もちろん進撃の巨人にもとめられるセリフが、学術めいた話や哲学めいた話じゃないというのもあったかもしれないですけど。

たとえば、調査兵団における、エルヴィン団長の兵団の鼓舞の仕方は、あれ部活ですよね。たぶん、そういう生活における、経験みたいなものが、台詞回しの根底にあって、それを世界観にあわせてアレンジしたんだと思う。

やってることは、かなりハイセンスで知的です。あとは、このセリフにつながる思想的な部分は、もしかしたら、ご両親とか年長者の影響があるかもしれないですね。これについては、後述します。

ドラマチックな複線回収の仕方

さて、進撃の巨人という物語の創作において、最も驚いているのがコレです。

伏線の貼り方と回収がすごいですよね。

大型の巨人がアイツだった話とかは、仕込めるとおもうんですけど、エレンのママを食った巨人があの人だったりする話は、よく残して回収したなって思いますよ。

©諫山創・講談社/「進撃の巨人」製作委員会

冨樫先生とか鳥山先生とか見てるとわかると思うんですけど、連載漫画家って伏線、回収しきれていない人多いですよね笑 というか編集指示で展開変えさせられたりするので。だからまあ、変更をみこして、匂わせる程度で、捨てる伏線というのもある。

でも、いまのところ進撃の巨人は、すべてが綺麗に回収されているようにみえる。ストーリーライン自体はシンプルにしてあって、劇中でのやりとりに注視しているからかもしれませんが、ここまであの若さで(しつこい)、重層的な物語を事前に用意して作ったというのは、本当に凄い。

人の営みが描ける

そして人の営みが描けているのがすごい。

物語の説得力を生み出す大切な事柄がコレです。作者が他愛もない人の営みを客観的に描けている。これが凄い。

進撃の巨人って、物語の目的の一つは「敵を倒す」「世界を制する」というのもありますけど、細かくは「日常を取り戻す」なんですよね。

©諫山創・講談社/「進撃の巨人」製作委員会

じゃあ、その取り戻したい日常はなんなのか? その日常に説得力がなければ、ドラマに魅力が生まれないんです。

たとえば、鬼滅の刃の日常って(また例に出してすいません)、取ってつけたようなおとぎ話のような日常で、あんまりリアリティがないですよね。あれは話としてダイナミズムはありますけど、世界観は、いわゆる、子供だましなんです。もちろん、そういうリアリズムがなくても機能するすばらしい作品ではありますけど。

対して、進撃の巨人は、徹底的に「ありそうな日常」を描いて見せていますよね。時代としてはビクトリア朝時代のイギリスっぽいかんじ。第一次世界大戦の直前くらいです。化石燃料による内燃機関がないので、産業革命が起こる直前といったところ。でも、オーパーツとして、また失われた知識として、技術が残っているから、服飾品や生活用品は、やや産業革命後のものもある。このあたりは、巨人によって記憶を改ざんされているので、けっこう矛盾が気にならない。

その上で、他愛もない子どもたちや市井の人々の営みを描いて見せている。

これも、作者の実体験だと思うんですよね。ようするに、作者の郷里の人々の暮らしをアレンジしているんだと思うんです。体験を作品に落とし込んだ。非常に体感的に、感覚的に行き届いた、質感のある生活を描けている。

この生身の体験からくる表現「人の営みをちゃんと描ける」という特性は、作品におけるもっとも重要なポイントにつながっていきます。

正しい思想を持っている

進撃の巨人における、設定や伏線の回収は素晴らしいものがありますが、それは正しい方向付がなされなければ機能しません。

正しい方向というのは、作者の「ヒトは何を思い何を目指すのか」という思想によって作られます。

この思想が浅はかだと、どんなに作り込まれた設定や伏線があっても、話=会話がうすっぺらいものになってしまうんです。子供だましになってしまう。

©諫山創・講談社/「進撃の巨人」製作委員会

青年漫画だから別にそこまで思想性は求められていないですし、そんなもの良いのかもしれません。ですが、進撃の巨人は、同水準の作品のなかで、ただ一つ抜けた、説得力と広がりのある思想が付与されて作られています。

すなわち、

「世界は残酷だけど美しい」

です。

これ、作者がどうやって選んだのかわかりませんが、私の知る範囲だとデビット・フィンチャーのセブンのラストあたりでモーガン・フリーマンが言ったセリフ「この世は素晴らしい、戦う価値がある」に似てるな、と。さらにうと、それはヘミングウェイの言葉なんですけどね。

それのアレンジかもしれません。違うかもしれない。作者が自力で導き出したものかもしれない。

ただ、劇中散々言われる「世界は残酷で美しい」というのは強烈に的を得ているんですよね。年齢に関係なく、この言葉は生きようと思う人なら誰もが納得する力がある。

で、これをスタートにすると、物語がとんでもなく引き締まるんです。あらゆるキャラクターについての、戦う全ての意味に通じる。この言葉を選んだ作者は本当に凄いと思う。これを基準にすれば作品はぶれないですよ。だから、いままでカチッと物語が続いたんじゃないかとも思っている。

なぜそんな言葉がでてきたのか? そんな思想にたどりついたのか?

これは、変な話ですけど、やっぱり両親の教育と郷里の環境の賜物だと思うんですよね。先に記載した人の営みが描けるとか、キャラクターにバリエーションが作れる、というのも、ぜんぶ作者が若くして得てきた、生身の実体験が絶妙にあわさることで、実現したんじゃないかと思っている。

そういう意味でいうと、作者自体の存在は、けっこう奇跡だと思うんですよね。

よく言われる進撃の巨人は「田舎に閉じ込められた人の外への渇望」なんだって話は、当たり前によく分かるんですけど、それだけじゃこの物語は生まれないんですよ。

すなわち、客観性をもって作者が世界に触れて、ちゃんと愛され、ちゃんと青春し、ちゃんと最低限世界について学んだ、実体験を得た結果の物語ですよね。そういう、奇跡が、作者と物語を生み出したと思うんです。

これが、僕の思う作者と進撃の巨人の凄さなんです。

漫画界の巨人は引き続き進撃する

さて、物語は佳境に入ってまだしばらく続きます。青年から大人になった作者が、どんな物語を紡いで結末を迎えるのか、今からとっても楽しみですね。

引き続き堪能したいと思います。

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