空前の陰キャブーム到来
陰キャブームですよね。
最近、マイナス思考の陰キャ男性主人公というのはめずらしくありません。
目につくものといえば、折木奉太郎、それからFGOのマンドリカルドくん。折木奉太郎は陰キャというか、やる気ない子ですが、後者のマンドリカルドくんは、比企谷八幡を意識しているように見えますね。洋物でも、たとえばスパイダーマンは陰キャナードが主人公だったこともありますね。
陰キャ主人公のスタンスとしては「世を覚めて見て、何事にもおっくうで熱がないが、本気をだしたら結構驚くことをやってのける人たち」ですね。
比企谷八幡と過去の愉快な陰キャたち
比企谷八幡はそれを、もう明快なくらい言動も含めてアイコン化してみせて、共感を集めるわけなんですけど、直近の源流でいうと下記がボヤキ系男性キャラが、陰キャへの注目と導入になっていますね。
涼宮ハルヒの憂鬱/キョン
キョン系のボヤキキャラは一時期もてはやされました。モノローグ主体で、世界を語り、ヒロインや事象に対してツッコミを入れる。たまに熱くなって、ヒーローめいた立ち回りもする。陰キャというよりはモブ感、といったほうがいいかも知れませんが、コレより前において、八幡やキョンのようなキャラクターが主役をしているというのは、メジャー系の青少年コンテンツではあまり見かけなかったと思います。
いちおう古田実等に出てくるキャラクター等ではちらほらいましたが、あっちは本当にルックスも含めてダメ人間なので、ちょっと違うかも知れません。
さて、目立つところで軽く源流をたどると、陰キャにして本気を出すと凄いキャラには下記もいます。
カイジ/伊藤カイジ
彼は同作品のキャラとしては抜群にキャラが立ち、斬新な男です。しかし、わかりやすいヒーローとはちょっと違いましたね。ただ、このカイジの漫画原作がはじまったあたりから、陰なダメ人間が覚醒して活躍する、という萌芽がそこかしこで見られたと思っている。おいどんとか、諸星あたるとかああいう陽系ダメ人間とは違うタイプが出て来た。
そしてカイジより前だと、陰キャというのはどうもあまりいないんですよね。そもそも、多くの場合において、陰キャは物語を勧める動機に乏しいので、主人公としては使いづらいという側面もあります。陰キャというのは本当に動かない。
けしかけられて働く主人公
比企谷八幡とか折木奉太郎とかキョンというのは、設定ありきのハーレムもの要素がまずあって、脇を固める登場人物に期待され、信任されハッパをかけられて、初めて行動している。カイジについては、キャラクターはやる気がないがギャンブルだけは好きという設定により物語をすすめていた。どうもストーリーの王道の本流にあるところでの行動動機に乏しいんです。
だから、熱血キャラやクールキャラがメインだったころは、本当に陰キャで物語を主導する人物は少なかった。
じゃあ、メジャーコミックやアニメにおける陰キャの源流はカイジなのかというと──カイジもどちらかと言うと異端です。ダメ人間、陰キャ、三白眼といえば、実は古典的作品に一人思い当たる、明確なキャラクターがいたりします。
機動戦士ガンダム/カイ・シデン
彼は主人公ではないですね。先述のとおり、旧来の物語構造だとちょっと物語が展開しずらいので、ガンダムでは、同じく陰キャながらも若く熱血気質もあるアムロ・レイが主人公をしている。
しかし、このカイシデンというキャラクター、セイラさんからの引っ叩かれっぷりからしてもう、ダメ人間軽薄陰キャの味わい深い資質が全て詰まっている。劇中は軽口をたたきますが、登場した当初は比企谷八幡もかくやという感じの根暗っぷりを発揮していました。そらセイラさんに殴られるわ。アムロもブライトに陰キャすぎて殴られてたけど。
しかし、カイ・シデンは、ミハルを失ったあたりから、一念発起して活躍します。はてはホワイトベースMS隊のリーダー的役までやってしまい、戦闘をとりしきったりする。まさに陰キャヒーローの鏡です。しかも、アムロについで活躍をしていたりする。
こんなキャラクターを40年も前に作ってしまうあたり、富野由悠季という監督はすごいな、と思います。そしてカイ・シデンより前になると──これはもう太宰や夏目漱石の小説の中とかになるんじゃないかと思います。本当に思い浮かびません。
何故陰キャが主役を?
さて、かつては脇役であった陰キャが何故主役をはっているのか?なぜ令和の現在ではアムロが主人公ではダメなのか? なぜ碇シンジくんにピンとこないのか? みなさん薄々感づいていると思いますが、現在において陰キャ主人公が重用される理由は、明確に一つある。
それは視聴者が「僕たちはヒーローになれない」ということに気づいてしまったからですね。もっと細かく言うと、現実をある程度知っている年齢層がコンテンツのターゲットになったからだと思っています。
でもヒーローになれないけれど、自身の勝手知ったる振る舞いの範囲でヒーローしたい。そうして生み出されたのが、最も母数の多い視聴者の「陰キャ気質」を反映した主人公の登場です。
彼らは旧来のヒーローのようにめったに熱血しません。その代わりに、観察し評価し、状況を断じ、もっとも効果的なタイミングでアクションをして、周りを出し抜き、驚かせ、評価を覆します。その振る舞いは、まさに陰キャの望むスタイルそのものです。めちゃくちゃ現代っぽいですよね。
逆転した主人公像
かつて熱血がいて、そのサブキャラだった陰キャは、現在では逆転した状態で主人公をやっています。
比企谷八幡の対になる形で葉山隼人がいますよね。彼、旧来の作品だと主役やれる人物ですよね。ちょっと出来すぎですが、あれをもう少しアホにして熱血にすれば主役ですよ。それが、現在だと立場が逆転しているのが面白い。俺ガイルは、熱血王道主人公の悲哀まで描いてます。葉山隼人は、リアリストに徹して、現実に即した振る舞いをする八幡を羨ましいと思っている。そして理想を押し付けられている自分を堅苦しいと思っているように見える。ちょっと象徴的だと思います。
ただ見てくと、陰キャにも主人公になる条件というのがちょこっとだけ存在しています。それはその気質に「俺様」「クール」が、隠れていたりします。ヘタレと陰キャが強すぎて、ちょっと見のがしがちですが、つまりは、モテ要素もちゃんと混ぜられているんですよね。だから必然的に主人公足り得る。それは、視聴者側から「陰キャ」は「こうみられたい」という、願望の反映かもしれません。
令和の時代のまだ見ぬ主人公たち
そんな訳で、陰キャ主人公というのは、ようするに僕たちの代表であり僕たちの願望が投影された主人公なんですよね。なんだかんだと、今の時代に共感出来る間口を持っている。活躍や人気の(?)理由も、紐解いてみれば非常によく分かる話なのです。
そして、今後も第二第三の陰キャ主人公が出てくるんじゃないかと思っていますが──さて、あなたは陰キャと陽キャのヒーローさん、どっちが自分に合っていそうですか?
以上、陰キャの活躍の理由についてでした。