戦場ヶ原ひたぎと雪ノ下雪乃に見る、新時代のヒロイン像

化物語やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。
(C)西尾維新/講談社・アニプレックス・シャフト

俺ガイル完を見ていて気になる存在に、僕は雪ノ下雪乃というヒロインがいます。

実はゆきのんって、過去にあんまり類型がないと思うんですよね。いちおう、最近だと似たところでいうと、化物語の戦場ヶ原ひたぎというキャラがいます(はがないの夜空もだけど今回は割愛)。そしてこの二人は、いままでのヒロインたちの中ではすこし毛色が違うと思っている。

今回、戦場ヶ原ひたぎと、雪ノ下雪乃の二人を中心に、ヒロインの新しい形について、思うところをいくつか論じて見たいと思います。

スポンサーリンク

黒髪ロング系美少女の新しい潮流

まず、それぞれの性質ですが、特徴として劇中屈指の美少女であり知性が高く運動神経もそれなりに良い。つまりは、とんでもなくパーフェクトな女子である、というのがありますよね。他方、その孤高のスペック故に、孤立し、1人難題に立ち向かっている。主人公はそこに絡むことで、彼女たちと心を通わせる。

過去作品において、あらゆる面で高スペックなキャラクターというのはめずらしくありません。さらに黒髪ロングはヒロインテンプレの一つですから、過去にもけっこういます。メインヒロインで、さらに思い悩んでいるというのも、探せばいるでしょう。傾向としては、箱入り姫系やお嬢様系が多いですよね。

©渡 航、小学館/やはりこの製作委員会はまちがっている。完

ただ一点、ガハラさんやゆきのんを見ていて思う点としては、彼女たちは旧来の深窓の令嬢というタイプとはちょっと違っているんですよね。陰キャ要素があるとか、天然ぽくもあるとか、色々有るんですけど、一番の違いは、理屈っぽい側面を持ち、口うるさく小言を言い、なんならオタク気質に見えるところですかね。いままでの黒髪系パーフェクト美少女は姫であり知恵者でありましたが、清潔感も象徴しており、ネガティブな意味での理屈っぽさやオタク感はそんなにありませんでした。しかし彼女たちは、もう一つ踏み込んだ生臭いキャラ設定が付与されていると思っています。そして、僕はちょっとこれが新しい傾向だと思っている。

なぜそんなキャラが出てきたのか? それについて、解説する前に男性主人公にもちょっと言及したいと思います。

ボヤキ系主人公の登場

さて、時を同じくして──というか彼女たちよりちょっと早く出現したものとして「ボヤキ系主人公」というのがあります。これもまあ、昔から存在していない訳ではありませんでしたが──彼らの出現前は、熱血系ヒーロー系ばかりでした。

それが、切り替わったのが「涼宮ハルヒの憂鬱」のキョンの出現ですよね。彼によって「状況についてひたすらボヤキながら対応していく主人公キャラクター」というのが認知されるようになった。

(c)2006 谷川 流・いとうのいぢ/SOS団 (c)2007,2008,2009 谷川 流・いとうのいぢ/SOS団

彼は、実社会における男性の「ギリギリありそう」な内面吐露を「ギリギリオタクっぽくない」&「子供っぽくならない」範囲でやってみせることで、多くの承認を得た。「俺もああいうこといつも考えているよ!」というような。もちろん、そこにはアニメのヒットもありましたが。

そしてこのボヤキスタイルは、以後さまざまな男性主人公の一人称視点の物語に引き継がれる。後発の俺ガイルや化物語は、先にキョンがマーケットを創ったから、受け入れられたというような気がしないでもない。これがテレコになっていたら、受け入れられたかどうかは分からりませんよね。

俺ガイルの八幡などは、もしかしたらハルヒより前に時代に投じられていたら、本当に単なるムカつく男として拒絶されていたかもしれない。

何がいいたいのかというと、ここ10〜20年でボヤキ系主人公の認知はぐっと広がったと思っている。その結果としての、阿良々木暦であり比企谷八幡だと思っています。

それらの作品に出てくるヒロイン像の違い

さてそういう作品群に対して、登場するヒロインはどうか?

見ての通り「ハルヒ」と「化物語&俺ガイル」はヒロイン像が全く異なっている。

涼宮ハルヒは、衝動型であり何を考えているかわからない、かなり特徴的なヒロイン像です。無二のキャラクターではありますが、実はハルヒという女子は、同コンテンツ「涼宮ハルヒ」以外に存在しない。ハルヒのようなキャラクターを他の作品ではみたことがないんですよね。ハルヒという存在は、同物語においてキョンの課題としては有用だったが、同作以外では転用できないキャラクターでした(賑やかしの長門有希と朝比奈みくるは割愛)。ちなみに、キョンはハルヒを選んでいますが、ぶっちゃけその行動動機は不明瞭だし説明はされていない。オチもまだついていない。

(c)2006 谷川 流・いとうのいぢ/SOS団 (c)2007,2008,2009 谷川 流・いとうのいぢ/SOS団

一方、化物語と俺ガイルは、それぞれ構造としてはダブルヒロインを設定しています。化物語は羽川翼と戦場ヶ原ひたぎがおり、俺ガイルには由比ヶ浜結衣と雪ノ下雪乃が存在する。それぞれクールヒロインと、柔らかく明るいヒロインが設定されている。さらに、興味深いことに、主人公はどちらもクール系ヒロインを選んでいる。

これはどういう意味があり、何の違いを表しているのか?

小言を言うヒロインを選ぶことが最適解になる時代

いままでの物語系譜からいうと、よりヒロインぽいヒロインって、やっぱり由比ヶ浜結衣であり羽川翼の方だと思うんですよね。ハルヒはちょっとパーフェクトすぎますが、あれはまあ神なので別枠でしょうか。とにかく、基本的には旧来のヒロインというのは母性をもち、主人公を立て、また男好きする外見を持っている。あるいはツンデレであっても最終的にそういう側面に帰結する。そして旧来の作品ではそっちが選ばれていた。しかし、同俺ガイルおよび化物語では、由比ヶ浜結衣も羽川翼も選ばれなかった。

何故、選ばれないんでしょうね?

僕が思うのは、ボヤキ系主人公のヒロインへのニーズが、「母性」や「男を立てること」や「許容」に加えて、「対話」と「相互理解」にあるからだと思っています。

ここでいう「対話」や「相互理解」は、小言によるツッコミであり、コミュニケーションを経て心を通わせる事です。旧来のヒロインで、それをしている存在はちょっと思い浮かばない。たとえばうる星やつらのラムちゃんや、乱馬の天道あかねは、一見対話するようにみえて、実はコミュニケーション上では双方おそろしく鈍く、断絶がずっと続いています。相互に理解しあっている訳ではないんですよ。パートナーを男女という完全に別物としてまず設定し、その上でよくわからないまま寄り添っている。許容はしてくれるんですよ。でも対話や理解はしていない。

そして現代において、ハルヒがボヤキ系主人公のパートナー類型として以後引き継がれていないのも、ガハマさんやバサ姉が選ばれないのも、彼女たちは旧来ヒロインのように許容はすれど、対話してくれないからだと思っています。

一見、羽川翼は対話するように思えますよね。でも彼女は劇中、味覚や痛覚や感情音痴を発露したように、ちょっと哲学的ゾンビ入ったキャラクターですよね。反射でリアクションしているだけで理解はしていないような設定になっている。良く出来たヒロインでありすぎるがゆえにウソになっている。それに対して、戦場ヶ原ひたぎは、阿良々木さんという化け物に対して、「女子」の立ち場で扱い、ツッコミ、理解し対話をしていた。忍野忍も含めてまるごと。

しかも、感覚的に分かるのは、羽川翼と忍野忍は突き詰めると殺し合うんだけど、戦場ヶ原ひたぎは忍野忍と互いに関知せず、許容し、無視する気がするんですよね。阿良々木さんはそこも見越して選んでいる気がする。でも内心でそれぞれ自分が正妻だと思ってそうではありますけどね。あと、阿良々木さんの本命は八九寺だけど。

(C)西尾維新/講談社・アニプレックス・シャフト

由比ヶ浜結衣は、やっぱりパートナーとしては都合が良すぎますよね。彼女は、許容が第一に来ています。もうほんとうに八幡のあらゆる要求になし崩し的に答えそう。笑顔で。しかしゆきのんとの気質の違いから、八幡とは対話ができない。どう考えても比企谷八幡の知的ニーズには答えられない。

©渡 航、小学館/やはりこの製作委員会はまちがっている。続

つまりまあ、雪ノ下雪乃や戦場ヶ原ひたぎは、ボヤキ系主人公が望む「許容」と「対等に対話をしてくれる相手がほしい」という両方のニーズをクリアできる存在として生み出されたんじゃないかと思っています。

対話してくれるヒロインへのニーズ

では何故そんなニーズが生まれたのか?

ボヤキ系主人公というのは、そのボヤキを突き詰めて行くと、劇中世界すら否定し始める存在だと思うんです。ボヤキは、それ自体が劇を壊すチートなんですよ。逆張り邪道を選ぶ比企谷八幡は、そのボヤキ自体がチートでした。阿良々木暦は、彼の能力以上に世界を解説するモノローグの力がチートなんです。

その能力は、翻って現実世界の人たちにも当てはまる。人の自意識というのも、何処かで歯止めを欠けなければ、思考は加速し、自身の全能感はとめどなく広がってしまいますよね。そして、現実世界の人間も、肥大化しすぎた自己を押さえきれなくなると世界を呪って事件を起こしたりする。

そこに歯止めをかける存在として、戦場ヶ原ひたぎや雪ノ下雪乃という、対話するヒロイン像が生まれたんじゃないかと思っています。彼女たちに与えられた役割は、歯止めでありツッコミなんです。さらに言えば、かなり高度な、彼らの知的ボヤキについていけるコミュニケーション能力です。

これ、やっぱり現実世界の我々のニーズに合致していると思うんですよね。

ようするに、今の男子というのは、どこかで好き勝手できる都合の良いヒロイン以上に、言っていることをある程度理解してくれるヒロインを求めているのだと思います。

(C)西尾維新/講談社・アニプレックス・シャフト

そういうニーズを踏まえて、キャラ付けが成された結果、美少女化し小言を言うキャラが生まれたと思っている。現実世界のマウンティング合戦につかれた現代男子は、自身が認めた知性を持つ美少女に理解され、尻に敷かれたいんです。

それに対する答えが、戦場ヶ原ひたぎであり、雪ノ下雪乃じゃないかな、と思っています。そして、彼らは彼女たちに回帰して、しばしチートを止め、物語をオチをつける。

これが、昨今の正しきヒロインとパッケージの形なのかなと。──おそらく、似たキャラクターや関係性というのは、これからちらほら増えてくる気がしています。

以上、今回はそんなお話でした。

追記:ちょっとまだこの話未消化なんで、またなにか書くかも。言説の軸なんかブレとるし。

タイトルとURLをコピーしました