今週末、T-34 レジェンド・オブ・ウォーをダラ見してきました。ヤフー映画で★評価4オーバーのスマッシュヒットということで、一体どんな内容だろうか? トレイラーを見る限りでは、限りなくガルパンの実写に近いイメージがあり(出てくるのはおっさんばかりですが)、これは昨今の戦車ブームに乗って見るしか無い!と思い、鑑賞した次第です。
そして、視聴結果としては──ハラショー、スパシーバ、君たちが本気だったってことはよく分かったよ。そう称賛せざるを得ない出来栄えでした。
ちなみに、先に行ってしまうとですね──この映画の評価には様々な側面がある。ヤフー映画のレビューを見ればわかるとおり、令和の現在における典型的なハリウッドエンターテイメントを期待しているならNOという結果になるかもしれない。しかし、それはあたりまえの事でもある。この映画はアメリカというバカ大国の思想に基づいてつくられたものではないからアメリカ的な発想の物語展開をしていない。この映画にNOを突きつけるというのなら、そいつは完全にハリウッドに毒されており、アメリカの犬だ。しかし、もしあなたが、ハリウッド映画以外のものにエンターテイメント性や文化的な感銘を受けることができるのなら、この映画は大いにあなたを満足させることが出来るだろう──とまあ、何故か翻訳レビューっぽい書き方で書いてしまいましたが、要するに、面白かったです。
さて、ネタバレのない範囲でいくつか、解説。ストーリーは予告のとおり「ナチに囚われたソ連の戦車長が、収容所でT34-85(T34最強スペックのやつ)を与えられ練習の的にされかけたから、逃げた」というお話し。めちゃくちゃわかりやすいっすね。でまた、登場人物たちが分かりやすい。
- 俺ツエーの戦車長
- ヒゲの天才運転
- やさぐれ破天荒な砲手
- ド天然アーティスト系の装填手
- 薄幸だけど強いロシア女子
- 主人公ライバルにしてイキリ系のナチ若造幹部
- その他無能なナチ将兵
余計な登場人物はおりません。ストーリーラインもキャラクターもハリウッドと違って分かりやすい。わかり易すぎる。ジャンプならこんなストーリーと人物評だしたら編集からボツ食らうレベル。ハリウッドでも日本でも映画Pだってこんなベタな設定は許可しないでしょう。しかし、そこは超大国ロシアです。これでOKを出してしまうんですね。で、彼らは何をしたかというと、このとんでもなく分かりやすいストーリーで「ガルパン的戦車機動」をさせそれを「ハリウッド実写レベルの戦車戦クオリティ」で再現してきたんです。
もうね、そんなもの楽しくない訳ないでしょ。実写のタンクがあの重厚さでもって、ガルパンバリに機動しまくるんですよ。なんなら白鳥の湖流して戦車がダンスするんですよ?(マジで) 戦闘描写はいままでに無いくらい暑かったですよ。ブラピのヒューリー?リアリズム? は? なにそれおいしいの? というレベル。
さて、ここでストーリーが薄っぺら・・・・・・シンプルであることが功を奏します。四の五の考えなくていいんですね。俺たちはソ連兵、ナチは敵、俺達は戦車でそれを倒すんだ!何か間違っているかい? ええ、何もまちがっていません。迷う必要はありません。フューリーみたいにグダグダ葛藤しない&ブラピかっこいいPRが無いから、戦闘に没入できるんです。シンプルに、戦車で戦うとはこういうことだったんだ!みたいな感動があります。
そして、薄っぺら・・・・・・といいかけましたが、ストーリーがベタであることは、悪いことではないと思わせます。敵が居て味方が居て、愛する人と祖国がある。そのために働くのだ、というシンプルなメッセージは、後半に行くほどロシアという素朴な国の価値観を際立たせ、フューリーのグダグダした感じにくらべて(すいません)、とっても爽快感があるんです。ポリコレとかちょっと食傷気味ですもの。
真面目な話、ロシアという国は、大自然が過酷なので、基本的にはあの国の人達は思考がシンプルなんですよね。正義と悪、恋すること愛すること、友情、国、仲間、そして敵は永遠に敵。印象的なのは、ナチスの将兵が主人公の才能ある戦車長にドイツ的なノリで評価し認めて、仲良くなろうとするんです。ですが、ソ連の車長はこれを拒みます。おまえは敵なんだ、と。ゼッタイに受け入れない。アメリカ映画だと、ちょっと交流しちゃったりするんですよ。でまあ、それがジレンマになるんですけど、ロシアだとそこは相容れない。一方で仲間とロシア人女性は徹底的に愛する。これも象徴的なんですけど、ロシアの恋愛事情って、基本若かろうがなんだろうが、来年まで自分が生きているかどうかわからない、という発想なので、一期一会を大事にしてフルスロットルで速攻愛し合うんですよ。これもよく現れていた。明日はない、待つことは無駄だ、だから全力で、今を生きることを選ぶんだ、と。
そういうロシア的観点でちゃんと見ると、なるほど彼の国の思想信条をしっかりと取り込んだ上で、ハリウッドに比類するエンタメアクションを実現した良質な映画になってしまっているのです。シンプルに言うと、ロシア的中二病価値観のかっこいい/イケてる、を目一杯つめこんで、やりきったアクション映画をつくったらこうなりました、みたいな。レニングラード・カウボーイズに戦車をつけ加えて、ハリウッドアクションさせました、みたいな。これは、ロシアでヒットする訳だと思いました。
さて、今しばらく劇場公開はされているようですが、公開終了してもソフトで見れます。戦車好きでロシア好きで、ロシア美女好きでT34好きで、ナチ好きならゼッタイに見るべき作品です。
監督 アレクセイ・シドロフ
脚本 アレクセイ・シドロフ
製作 ニキータ・ミハルコフ/レン・ブラヴァトニック/ルーベン・ディシュディシュヤン/ネリ・ヤラローヴァ/アントン・ズラトポルスキー/レオニド・ヴェレシュチャギン
製作総指揮 ミハエル・キタエフ
出演者 アレクサンドル・ペトロフ/ヴィンツェンツ・キーファー/イリーナ・スタルシェンバウム/ヴィクトル・ドブロヌラヴォフ/アントン・ボグダノフ/ユーリイ・ボリソフ
製作費 600,000,000ルーブル/興行収入 ロシアの旗 2,273,026,680ルーブル